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13. いちご煮も混ぜこぜ語

 いや、いきなり、旬な話題になってしまいました。農林水産省の郷土料理百選に青森県の苺煮が入ってしまったのです。実は苺煮は、アイヌ語と日本語の混ぜこぜ語の良い例と紹介しようと思っていたのですが。しかし、あまり、品の良い話ではないので。やっぱり、こんな話を文字に残すのは、やめよう。酔っ払って、勢いで話すことは良いけど。
 青森県や岩手県の三陸辺りには、昔から、鮑と雲丹を薄醤油のだし汁で煮た郷土料理があります。やたら贅沢な料理ですが、その昔、いや、その大昔、鮑も雲丹も沢山捕れたのです。それにしても、何故「いちご煮」と名付けられたのでしょう。高価で、一生に一度位しか食べられないから「一期煮」、これは、冗談、笑い話。一般的には「野苺の姿に似ているから」と言われています。しかし、似ていません。雲丹のつぶつぶが苺のぶつぶつに似ているといっても、つぶの大きさも違っています。それに、鮑が必ず付くのを苺は説明してくれません。「いちご煮」は、鮑が無いときは、つぶ貝を使ったりしますが、料理のバリエーションとしてありそうな味噌仕立てや濃い口醤油などが、ありません。これらから、観て楽しむ、絵を大切にした料理であることが分かります。苺を煮ても、おいしくないでしょう。砂糖でも入れなきゃ。入れたらジャムですけど。
 「イチャケ煮」の訛りというのが正解です。「イチャケ」はアイヌ語、煮は日本語、東北に残る混ぜこぜ語です。「いちご煮」は漁師料理ですから、「ねぷた」が「ねぶた」と濁っていうように、漁師言葉で、「イチャゲ煮」となります。意味はアイヌ語で「汚い」、昔は男社会でしたから、女性の方は腹を立てないで欲しいが、又は女陰のこと。ほんとかなと思われて、アイヌ語辞典を見ても「汚い」しか出てきません。アイヌのスラングなのです。アイヌ出身でないが故に無批判に聞いたままを収録したイギリス人学者がいます。ジョン・バチラーという宣教師が明治10年(1877)に来日、北海道に住んでアイヌ語を採集しました。彼の著した「アイヌ・英・和辞典」に、このスラングが載っています。

 Ichake, イチャケ、陰部、又ハ不潔、n, The vagina. Same as Echake

 鮑が女陰の意味であることは、よく例えられるので、分かりますよね。雲丹は、食べる所、卵巣か精巣なのですが、何を連想させるかが、男同士の話の種なのです。女性の方は不愉快でしょうが、日本各地に必ずと言っていい位、性に関する冗談はあるものですから、許してください。男達も舟の上では、宗教や政治の話をしません。喧嘩して、死にたくないですから。
 私も悪友と盛り上がりました。内容は割愛します。一度は文字にしてみましたけれど、過去の遍歴や趣味を互いに白状している愚に気付いたからです。
 漁師達は、こんな他愛のない話をしながら、暖をとり、休息したのでしょう。海は夏でも寒いですから。
 もう、いいですか?もう少し飲まなきゃ。
 「お酒、おかわり。それから、この鯨の刺身、これで、一人前?四切れしかないよ。これで、おし(4)まいって、駄洒落かい?薄く切ったねえ。後ろの紫蘇の葉の葉脈が見えるよ。鯨も、もう食えないな。うぶな人が赤面するのを楽しみながら、うまい『いちご煮』を食べられた昔は良かったなあ。」(2010/05/15)