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1-1. 昔の囃子言葉

 絵は津軽藩江戸詰藩士比良野貞彦が国元に来て「ねぷた」を描いた「奥民図彙の子ムタ祭之図」天明8年(1788)である。囃子言葉は「弥(ね)ぶたハ(は)なが連(れ)ろ。末免(まめ)の葉ハ(は)とゞ末(ま)れ、いや/(い)\(や)いやよ。」とある。菅江真澄も「豆の葉、留まれ」と書いているから柳田國男を始め、多くの民俗学者は、「留まれ」を元に論じてきた。しかし、土地の者は「留まれでねよ。トッツパレだよの。」と言う。青森ねぶた観光パンフレットに載ってる位、地元では知られた話である。トッツパレは昔話の最後に終わりの意味で使う。「豆の葉留まれ」も解らないが「豆の葉終わり」でも意味不明。
 「ねぷた」はアイヌ語である。意味はWhat何である。忌み言葉を「何」と置き換えたのである。ねぷた流しは何流しで、流した形代は、豆の葉、合歓の木、野生の藤、これ皆、豆科の植物。体中に豆のような水腫ができる病、痘瘡の病魔を流し去る願いである。痘瘡は江戸時代の死因一位であった。「ねぷた」「ねぶた」と清音(半濁音)でも濁音でも意味が変わらないのがアイヌ語の特徴。私は「いやいやいやよ」もアイヌ語ではないかと調べた。ビンゴ!あった。え~!その後に驚愕のことがあった。
 Yayeyamno ヤイェヤムノ【副】[yay-eyam-no 自分・を大切にする・(副詞形成)]気をつけて、お大事に。Yayeyamno ar pa ヤイェヤムノ アラパ 気をつけて行きなさい。*参考 別れるときに送るほうの人がよく言う言葉の一つ。地域によりまた人によって同じことを yayitupareno arpa ヤイトウパレノ アラパ《気をつけて行きなさい》、apunno arpa アプンノ アラパ《無事に行きなさい》とも言う。{E: take care, look after yourself (leave-taking ).}
 Yayitupa reno ヤイトゥパレノ【副】[yayitupare-no 気をつける・(副詞形成)]気をつけて、注意して。(アイヌ語沙流方言辞典 田村 すず子著 より)
 囃子言葉の謎は単純だった。形代の豆の葉、病魔に「さようなら」「バイバイ」を言っただけなのだ。
 何故、アイヌ語が残るのか。金田一京助、知里真志保、山田秀三等は、北海道は当然として、北東北にアイヌ語地名が残っていることを明らかにした。地名だけでないのだ。習俗の呼称にもアイヌ語が残るものがある。すっかり和人の習俗となっているが、かなりの昔から続けられた証である。絶える時代があれば、和人の呼称に替わっただろうから。青森県域は、自然の厳しい土地で、先人の知恵で生かされていると感じる人が多いのだろう。先人のやっていたことは続ける気質が育ったと考えられる。(2014・08・3)

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