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9. 「ねぷた」と「ねぶた」

 青森では、「ねぶた」と言い、弘前では、「ねぷた」と言う。過去には、どちらかに統一しようとか、どちらが正しいか、論争が続いていました。津軽人は、このネタで朝まで酒を飲めたのです。ねぷたやねぶたの話になると、「ジョッパリだな」「おめごそ、ジョッパリだべ」と互いに強情だと言い合いながら、自説を曲げず、時間を忘れ、酒量を忘れ、楽しい肴なのです。
 今、「ねぷた」は、アイヌ語で「何だ」と言うことを述べ、「ねぶた」と濁音になっても意味の変わらない言語であることを紹介しました。
 どんな時に濁音になるのか、アイヌ出身の知里真志保は、その著述の中で、興味深く述べています。
 『女よりは男に、子供よりは大人に、丁寧な発音よりはぞんざいな発音に、多く濁音が現はれる。酔つた人の発音では殆ど常に濁音である。之に反して婦女の丁寧な発音では必ず清音である。強いて濁音の場合を求めるならk,t,pが鼻音に続く場合で、これは有声音m,nがそれに続く無声音k,t,pを有声化する順行同化(progressive assimilation)に他ならない。tampe(これ)>tambe;ante(置く)>ande;ranke(取下す)range等。』
 清音とは、この場合、P音「ねぷた」の「ぷ」を含むものであることは、後ろ部分の例文でも明らかです。
 アイヌ語の原形としては、「ねぷた」で、青森は、酔っ払いが多く‐‐‐‐‐‐‐ではなくて、青森は、その昔、漁師町でしたので、男性的な風潮があって、「ねぶた」が一般的になったのだと思います.それに対して、弘前は、城下町、上品な気風で、「ねぷた」と言う人が多かったのでしょう。
 面白いのは、菅江真澄の「牧の朝露」の大畑のネプ流しにふれ、「ねふた」か「ねむた」かという論争があることに触れています。寛政5年(1793)頃には、既に、熱をおびていたのです。
 「ねぶた」、「ねぷた」あるいは、「ネプ流し」の「nep」は「what」の意味であることを、今まで、アイヌの人達からも強く主張されなかった訳が、田村すず子氏の「アイヌ語沙流方言辞典」にあります。そのnepの項 nep ネプ (hemantaへマンタ)何。☆参考「何?」を沙流方言の日常語では通常hemantaへマンタまたはhntaフンタというが、時としてこの形も使われる。歌や韻文ではhemantaへマンタではなくこれが使われる。{E:what }
 アイヌ語の雅語ともいわれる古語では、指摘する人も限られる訳です。
 本稿では、アイヌ語の原語を意識した場合は「ねぷた」を用い、青森や他地方の古代からの
「ねぶた」を意識したり、晩酌しながら、書いている場合は「ねぶた」になっています。ご容赦を。(2010/05/15)